
ページを開いた瞬間から、胸のどこかがそっとざわつく——。
「最近、本当に夢中になれる一冊、読んでないな…」
そんな物足りなさを抱えているなら、日本推理作家協会賞は、いまのあなたにぴったりの“道しるべ”かもしれません。
長編および連作短編集部門で名前を連ねたのは、
古代中国の都・長安に血なまぐさい謎が渦巻く物語、
老いゆく父と家族の亀裂を描いた胸の痛むサスペンス、
女詐欺師コンビが世の悪を翻弄する痛快なクライム劇、
“奇妙な死体”だらけの本格パズル、
革命期ヨーロッパを舞台にした重厚な歴史ミステリ——。
どれも、「ただの推理小説」を超えて、
人の心の弱さや強さ、時代の空気、言葉にならない感情まで照らし出してくる作品ばかりです。
この記事では、第78回日本推理作家協会賞 長編・連作短編集部門の受賞作と候補作、全5作品を、ネタバレなしでわかりやすく紹介していきます。
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日本推理作家協会賞とは?
日本推理作家協会賞(にほんすいりさっかきょうかいしょう)は、
「その年に発表された推理小説の中で最も優れた作品」に贈られる、日本ミステリー界を代表する文学賞です。
ルーツをたどると、戦後すぐの1946年。江戸川乱歩が、自宅に集まる作家や編集者たちのために開いた親睦会「土曜会」まで遡ります。そこから自然と作家同士の交流が広がり、翌1947年に横溝正史や水谷準らの呼びかけで「探偵作家クラブ」が結成されました。
そして1948年、このクラブが主催する賞として生まれたのが「探偵作家クラブ賞」。
これが後の日本推理作家協会賞の前身です。第1回では、長編部門で横溝正史『本陣殺人事件』、短編部門で木々高太郎「新月」などが受賞し、以後、時代ごとの代表的なミステリーが次々と選ばれていきました。
1963年、組織が社団法人化されて名称が「日本推理作家協会」に変わるとともに、賞の名前も現在の「日本推理作家協会賞」に改称されます。現在は
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長編および連作短編集部門
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短編部門
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評論その他の部門
という三つの部門に分かれ、前年1年間に発表された作品を対象に選考が行われています。
推理作家協会の会員かどうかは関係なく、誰でも“作品の力”だけで勝負できる賞であり、同協会主催の新人向け公募賞「江戸川乱歩賞」と並んで、日本の推理小説界で最も権威ある賞のひとつと位置づけられています。
本格ミステリ、社会派、サスペンス、歴史ミステリ……
ジャンルの細かい枠にとらわれず、「面白さ」と「完成度」でその年の“顔”となる作品が選ばれてきた歴史そのものが、日本推理作家協会賞の歩みだと言っていいかもしれません。
第78回 日本推理作家協会賞
受賞作:『崑崙奴』古泉迦十
概要
舞台は大唐帝国の都・長安。街では、腹を十文字に裂かれ、内臓を抜き取られた死体が次々と発見されます。
まるで犯人が「心臓や肝臓を喰らっている」かのような凄惨な犯行。
謎めいた奴隷“崑崙奴”の少年と、調査を担う青年たちの視点から、連続殺人の真相と、当時の宗教・権力・人間の欲望が立体的に浮かび上がっていきます。
作者情報
古泉迦十(こいずみ・かじゅう)は、2000年にイスラム世界のスーフィーを題材にした『火蛾』で第17回メフィスト賞を受賞しデビューした作家。
独特の世界観と本格ミステリとしての完成度でカルト的な人気を集めました。
2024年刊の『崑崙奴』は、なんと約24年ぶりの長編であり、同作で第78回日本推理作家協会賞を受賞しています。
ここが魅力
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古代中国×連続殺人という、歴史ロマンと本格ミステリが融合した世界観
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宗教観や政治闘争といった重厚なテーマを背景にしつつ、「誰が、なぜ、どうやって?」というミステリーの核は超王道
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ページ数はあるものの、「一度世界にハマると一気読みだった」という読者の声も多く、じっくり没入したい人にぴったり
候補作①:『翳りゆく午後』伊岡瞬
概要
「人を轢いたかもしれない」――80歳の父からかかってきた一本の電話をきっかけに、平凡だったはずの一家の生活が少しずつ崩れ始めます。
高齢ドライバー問題、父の周囲で囁かれる不可解な噂、そして近隣で起きた悪質なひき逃げ事件。
真相を探るうちに、息子は“家族の知らなかった顔”と向き合わされることになります。
作者情報
伊岡瞬(いおか・しゅん)は1960年東京都生まれ。
2005年『いつか、虹の向こうへ』で横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞を同時受賞してデビュー。
『代償』『悪寒』『不審者』『朽ちゆく庭』など、家族や社会の“影”を描き出すサスペンスで人気を集めています。
ここが魅力
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テーマは「老い」と「家族」。高齢ドライバー問題や介護、メディアの影響など、現実に直結した不安が物語の核に
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“誰かが悪い”と簡単に割り切れない状況が積み重なり、読者も一緒に葛藤させられるような心理サスペンス
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ミステリーとしての緊張感と同時に、普通の家庭に静かに入り込む翳りを描くヒューマンドラマとしても読める一冊
候補作②:『詐欺師と詐欺師』川瀬七緒
概要
海外で荒稼ぎして帰国した一流の詐欺師・藍(あい)。
彼女はあるパーティーで、親の仇を探すために大金を必要としている若い女性・みちると出会います。
復讐相手は巨大企業グループの筆頭株主という大物。隙だらけの復讐計画を聞いた藍は、興味を持ちつつも彼女と手を組むことに。
二人の女詐欺師が仕掛けるゲームは、思わぬ方向へ転がっていきます。
作者情報
川瀬七緒(かわせ・ななお)は1970年福島県生まれ。
2011年『よろずのことに気をつけよ』で第57回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。
ファッションデザイナーとしての顔も持ち、法医昆虫学シリーズや仕立屋探偵シリーズなど、職業・専門知識を活かしたミステリーで知られています。
ここが魅力
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有能だけどクセの強いベテラン詐欺師×不器用でまっすぐな新米詐欺師という、女バディものの掛け合いが楽しい
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巨大企業と権力者を相手にした“騙し合い”のプロットがテンポ良く進み、クライム・エンタメとして読みやすい
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「衝撃のラストに注意」と紹介される通り、最後に一発、ひっくり返る感覚も味わえる
候補作③:『死体で遊ぶな大人たち』倉知淳
概要
ゾンビに包囲された山荘、死者が“人を殺した”ように見える事件、腕だけ別人にすげ替えられた死体――。
「変な死体」だらけの状況で、それでも論理の力で真相に迫っていく、全4編の連作中編集です。
ホラー風味の合宿ゾンビもの「本格・オブ・ザ・リビングデッド」など、どの話も一見ふざけているようでいて、結末はきっちり“本格”。
作者情報
倉知淳(くらち・じゅん)は1962年静岡県生まれ。
日本大学芸術学部演劇学科卒業後、『日曜の夜は出たくない』でデビュー。
猫探偵シリーズなど、ユーモアと本格ミステリを両立させた作品で人気を集め、2001年には本格ミステリ大賞も受賞しています。
ここが魅力
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タイトル通りのブラックで不謹慎な味と、ガチガチに組み立てられたロジックのギャップが痛快
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1話ごとに完結する中編なので、短時間で“謎解きの快感”を味わえる構成
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「ミステリってこういうのが読みたかった!」というファンの声も多く、エンタメ度の高さと完成度のバランスが絶妙
候補作④:『伯爵と三つの棺』潮谷験
概要
フランス革命の嵐が吹き荒れるヨーロッパの小国。
領地の古城「四つ首城」で、元・吟遊詩人が射殺される事件が起きます。現場を目撃した人々は、犯人の顔をたしかに見たと言うものの、その容疑者は瓜二つの三つ子兄弟。誰が引き金を引いたのかを証明するのは、ほとんど不可能に思えます。
城主D伯爵は書記官を伴い、自ら真相解明に乗り出しますが、事件は思わぬ「歴史」の渦へとつながっていきます。
作者情報
潮谷験(しおたに・けん)は1978年京都府生まれ。
『スイッチ 悪意の実験』で第63回メフィスト賞を受賞しデビュー。
『時空犯』『エンドロール』『ミノタウロス現象』など、新本格ミステリ的な仕掛けと、ダークな心理描写で注目されている作家です。
ここが魅力
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「容疑者は三つ子」という、黄金期ミステリを思わせる設定を、歴史ドラマのスケールでやってのける挑戦作
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D伯爵と書記官コンビ、さらに主席公偵も加わって、複数の“名探偵”が推理を戦わせる構図が熱い
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単なる犯人当てに終わらず、革命期の社会背景や兄弟たちの運命も絡み合い、ラストには物語としてのカタルシスもきっちりある
分析
今回の日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉の顔ぶれを眺めていると、まず感じるのは「多様性」と「読みやすさ」のバランスです。
古代中国を舞台にしたスケールの大きい歴史ミステリ『崑崙奴』、現代日本の家族のひずみを描く『翳りゆく午後』、女詐欺師コンビが暴れ回るエンタメ色の強い『詐欺師と詐欺師』、“変な死体”だらけの本格連作『死体で遊ぶな大人たち』、そして革命期ヨーロッパを舞台にした重厚な『伯爵と三つの棺』──。
かつての「本格ミステリか、社会派ミステリか」といった二項対立では語れない、ジャンル横断的なラインナップになっています。歴史、家族、犯罪、ホラー風味、本格パズル……と、テーマもトーンもバラバラなのに、「読み終わったあとに何かが残る」という点で共通しているのが、とても今っぽい選ばれ方だと感じます。
また、デビューから長く活動してきたベテランと、中堅〜比較的新しい世代の作家が、ほぼフラットに並んでいるのもポイントです。実績だけでなく、その作品が「いまの読者にどう刺さるか」という観点で選ばれているからこそ、一般読者にも手を伸ばしやすい顔ぶれになっています。
もうひとつ印象的なのは、「一気読み系のエンタメ」と「じっくり浸る読書体験」の両方が揃っていることです。休日に一気に読み切りたい人も、数日かけて世界観に浸りたい人も、自分の読書スタイルに合う一冊を見つけやすい──そんなバランスの良さが、今回の選考結果から見えてきます。
よくある質問
Q. 日本推理作家協会賞の作品って、ミステリーファンじゃないと難しいですか?
A. 「ミステリー専門の人しか読んじゃいけない」ような作品ではまったくありません。今回の5作品は、それぞれに読みやすさが工夫されていて、家族小説や歴史小説として楽しめるものも多いです。
「謎解き成分多め」か「人間ドラマ多め」かで、自分の好みに近いものを選べば、ミステリー初心者でも十分に楽しめます。
Q. どの作品から読めばいいか迷います……。
A. 直感で「このテーマ気になる」と思ったものを選ぶのがいちばんですが、ざっくり言えば、
・物語世界にどっぷり浸かりたい → 『崑崙奴』『伯爵と三つの棺』
・現代のリアルな空気を味わいたい → 『翳りゆく午後』
・テンポの良いエンタメでスカッとしたい → 『詐欺師と詐欺師』
・短編〜中編でサクサク読みたい → 『死体で遊ぶな大人たち』
といった選び方がおすすめです。
Q. シリーズものや過去作を読んでいないと、話についていけませんか?
A. 今回紹介している5作品はいずれも「この一冊だけで楽しめる」タイプです。シリーズ作品のスピンオフではなく、独立した長編・連作短編集なので、予備知識ゼロで問題ありません。気に入った作家がいれば、そこから過去作にさかのぼっていく楽しみ方もできます。
Q. 文庫で読みたい派ですが、待ったほうがいいですか?
A. まずは「今、読みたいかどうか」で決めてしまって大丈夫です。ハードカバーや単行本で出た後、数年スパンで文庫化されることも多いですが、「読みたい熱」が高いうちに手に取ったほうが、読書体験としては満足度が高くなりがちです。電子書籍版が出ている作品もあるので、紙か電子かも含めて、自分の読みやすい形を選ぶのがいちばんです。
Q. グロテスクな描写や怖すぎる話は苦手ですが、大丈夫でしょうか?
A. 作品によってテイストはかなり違います。『崑崙奴』や『死体で遊ぶな大人たち』には、ややショッキングな描写も含まれますが、「雰囲気は味わいたいけれど、あまりに怖いのはちょっと…」という人は、『翳りゆく午後』や『伯爵と三つの棺』など、心理・ドラマ寄りの作品から入ると負担が少ないと思います。
まとめ
日本推理作家協会賞の作品は、「ミステリー界のプロが選んだ本」ではありますが、それ以上に、“今”という時代を映し出した物語のカタログでもあります。
古代中国や革命期ヨーロッパのような遠い時代を描いた物語もあれば、私たちのすぐ隣にありそうな家庭の問題や犯罪を扱った作品もあります。それなのに、どの作品にも共通しているのは、「人はなぜこんな行動を取ってしまうのか?」という問いを、物語という形でじっくり見せてくれるところです。
今回の受賞作・候補作5冊は、それぞれジャンルも雰囲気も違いますが、どれも“今年読んでおきたい一冊”と胸を張って言えるラインナップです。ランキングや賞の結果として眺めるだけでなく、自分の生活や価値観にどこか引っかかる一冊を選んで、実際にページを開いてみてください。
「たまたまこの賞をきっかけに手に取った一冊が、その後の読書の趣味を変えてしまった」──そんな出会いが生まれやすいのも、日本推理作家協会賞の面白さのひとつです。
気になるタイトルを、どうぞ“今のあなた”のタイミングで拾い上げてみてください。読み終えたとき、きっと少しだけ世界の見え方が変わっているはずです。
※セール・商品情報などは変更になる場合がありますので必ずご確認の上ご利用ください。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
良い本と、良い出会いを。





